アンコーツ病院外来患者待合室

図書館でたまたま手に取った子供向けの美術本、佑学社「イメージの世界 描かれた都市」という本。

描かれた都市 (イメージの世界)

描かれた都市 (イメージの世界)

この中に紹介されていた一枚の絵にグッと惹きつけられる。
それが、イギリスの画家、ローレンス・ステファン・ロウリー(検索するとローレンス・スティーブン・ローリーの方が日本では一般的なのかな?)の「アンコーツ病院外来患者待合室」という絵。


一応本にならってロウリーと表記、このロウリーという画家、初めて知ったのだけれど、生年1887年〜1976年、「素朴な様式で市民の日常を描いた」、ウィキペディアの日本版には項目がなくて、でも20世紀のイギリスで割と人気があった画家だったらしい。オークションでの落札予想価格が2億円超?という2008年の記事もある。
英画家ローリー幻の作品が競売へ、落札予想価格は2億円超 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News


画像がないので、といって絵を表現できるほどの文才もなく、困るのだが、この絵、タイトル通りアンコーツ病院の待合室をワイドに捉えて描いている。
ざっと50人以上もの人々の大方が、3列ある長いベンチに腰かけて診察の順番を待っているらしい。しかし、病院を感じさせるような辛気臭さ、無機質さが不思議とない。どこか中規模の駅の待合室なんかを連想させる。
頭に包帯を巻いている人、車椅子の人、担架に載せられている人もいるが、その他の人たちにはパッと見て病人らしい感じがしない。
簡単な点で描かれた顔からは表情が読み取れないのだが、どこか物憂げの様であり、でも印象としては決して暗くない、そこはかとなくユーモアがある。皆、いつ来るともわからない順番を待っている。もしかしたら、今日は呼ばれないかもしれない。と考え始めると、これ、カフカの世界に繋がっていくようにも思える。


なんでこの絵に惹きつけられたんだろう?
病院の待合室、とありながら、それらしく見えない。待っている人たちは退屈そうにしてはいるが、それが苦痛でも、面倒でもなさそうだし、重篤そうな患者も見受けられない。これ、日常的な光景?どこか異世界っぽいのだ。
50人以上もの患者がひしめきながら、まったく混沌とせずに、非常に静謐に表現されているのも、この場から連想させるイメージとは異なり、異世界っぽさに貢献している。
画面の半分から下にだけ人が描かれていて、半分から上は待合室の壁や天井といった高い空間が占めている。なんだか、これが静謐さというのか、落ち着いた印象を与える。
で、描かれた50人以上もの人たちが重なることなく、その多くの人たちが画面に向かって、表情のない点だけの顔を見せているのも面白い。鑑賞者に視線を返している!
実際、まったくこの視線に捕えられたのかもしれない!いちころ!


他にも色合いが、ロウリー自身「色はアイボリー、黒、朱色、紺色、黄土色、白だけを使い、中間色は使いません」と言っているように、ストイックに寒色系の色使いにこだわっている辺りが、個人的にはたまらない。
画集なんかあったら、ぜひ欲しいな、と。


アートの壁紙サイト?のロウリー作品、これらも実に面白い!
Laurence Stephen Lowry Paintings, Art, Oil Painting